夏が終わる前にぜひ味わってほしいと、蕎麦博士から連絡をもらった。夏のはじめに彼女の話しを聞いて夏の間中恋こがれていたその蕎麦を求めて、東京の東、西大島へ。
小林一茶が40歳くらいの時に滞在したという句碑もある愛宕神社。そろそろ香りそうな実をつけた銀杏の木に守られるかのようにある、その名も「銀杏」。銀杏色ののれんをくぐる。
そこにある自然、銀杏がお店にとって大切なものだということは、一歩店内に入ると確信を得ることができる。デザインされた店内の窓は、銀杏を眺めるためにつくられた窓。
恋こがれていた蕎麦は「紅の雫」。紅は何でしょう? 夏に紅いものと言えば、トマト! えー?
トマトの蕎麦?? これはいくら味覚的想像力をもってしても、食べないとわからない味だ。
上から見るとトマトがぎっしりで、蕎麦が見えない。水槽のような器は、箸を入れる前に、真横からもじっくり眺めるべし。
トマトとおつゆの海の海底に、蕎麦が泳いでいる。ゆらゆら。さあ、トマトをかきわけて、おつゆに顔をつっこんで、蕎麦をそっとつかまえる。
だしにつけこんでいるであろうトマトと、トマトのつゆが少し移った本来透明であろうおつゆが、ほんのり紅になっている。上品なだしと溶け合ったトマトの酸味の海を、私も泳ぐ〜。つるつる、ごっくん。ずずっずずっ、ちゅうちゅう。
主役の蕎麦と同等におつゆも主役。一滴残らす飲み干して、夏にありがとう。
そして、秋に、こんにちは。香ばしい蕎麦の実をちらしたこのデザートは、和栗のモンブラン。今年の秋初のモンブラン。
都営新宿線「西大島」下車徒歩5分。
おいしいイラストで綴られた分厚いメニューブックも、じっくり味わうことを忘れずに。